この裁判の結果では納税者の敗訴したことは、通達に規定されている「路線価に基づいた不動産(土地)の評価そのものが否認される形に見えます。
実は、通達には特例があって「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と規定しています。
相続税の評価は、時価で評価することが基本です。時価の求め方を通達に規定しているのですが、この通達(路線価)で評価することに不都合があれば、時価で評価しなさいということです。
この裁判の事案は、相続前3年半~2年半前までに2物件を約14億を借り入れで購入。路線価で評価して相続税を0円にして申告。その後税務署は、鑑定評価で約13億として評価し約3億円を追徴課税したというものです。
過去の裁決事例では、相続直前に購入し相続直後に売却したものについて否認した例がありました。あからさまな相続対策は否認されるということで一定の理解ができます。
しかし、今回は2物件購入したうち1物件は相続前3年以内に購入して、相続後に売却した物件。
もう1物件は、3年半前に購入して売却もしていない物件があり両方とも否認の対象にしています。
いつが直前といえるのか、売却していなくても相続対策と言われてしまうのか、基準が曖昧であることに税理士業界からも注目されていました
最高裁の判断は「租税負担の軽減を意図して行った行為」と評価し、税務署が評価したものは「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められる」としました。
この裁判によって、路線価で評価することを否認されたわけではなく、大家さんの所有している不動産の相続税評価が上がるということでもありません。しかし、相続直前に購入するなど、相続税評価を意図的に下げたと見られてしまうものは、時価評価しなければならなくなる可能性があります。
そうならないためには、「相続税を下げるために賃貸経営をやっていることではない」ことを客観的にわかるようにしておくことかと思います。
稼働率を上げ、管理会社と一緒に経営改善をする努力をすることが大事なのではないでしょうか。
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■渡邊 浩滋 氏
大家さん専門税理士・司法書士 渡邊浩滋総合事務所 代表
大家さん専門税理士ネットワーク 「Knees bee(ニーズビー)」代表
大学在学中に司法書士試験に合格。大学卒業後総合商社に入社。法務部として契約管理、担保管理、債権回収などを担当。退職後、税理士試験に合格。資産税専門の税理士法人に勤務後、2011年12月独立開業。
実家のアパート経営(アパート5棟、全86室)が危機的状況であることが発覚し、立て直すために自ら経営を引き継ぎ、黒字化を成功させる。2018年大家さん専門税理士ネットワーク「Knees bee(ニーズビー)」を設立。賃貸住宅フェアなど講演も多数経験。
著書に『大家さん税理士による 大家さんのための節税の教科書』(ぱる出版) 『税理士大家さん流 キャッシュが激増する無敵の経営』(ぱる出版)他多数。
■ホームページ「税理士・司法書士 渡邊浩滋総合事務所」https://w-sogo.jp/